青森県立三沢航空科学館をリサーチする際、多くの読者が検索窓に打ち込むのが「零戦」というキーワードです。「三沢に本物の零戦があるのか」「実物が解体されたのではないか」といった様々な言説がネット上で散見されますが、関係資料および展示経緯を検証すると、零戦展示の真相・経緯には2つの明確な事実が存在します。
第一に、館内に展示されている零式艦上戦闘機(二一型)は、実機ではなく映画撮影用に製作された実物大模型(モックアップ)です。映画『連合艦隊司令長官 山本五十六』等の撮影のために細部まで寸分違わず再現されたこの機体は、映画美術の最高峰とも言えるクオリティを誇り、遠目はおろか近接撮影でもレプリカと見分けがつかないほどの迫力を醸し出しています。この極めて高い完成度が、「本物の零戦が展示されている」という誤認を広める一因となりました。
第二に、この噂に拍車をかけたのが、2012年に十和田湖底から69年ぶりに引き揚げられた旧日本陸軍の「一式双発高等練習機」の存在です。国内に唯一現存する極めて貴重な航空遺産として、引き揚げ後に当館で保存・一般公開され、全国的な大ニュースとなりました。その後、この一式双発高練は所期の目的や保存管理の方針に基づき立飛ホールディングス(東京都立川市)へ返還・移駐されましたが、この「十和田湖から引き揚げられた旧日本軍の実機が展示されていた」という強烈な記憶が、前述の零戦模型とネット上で混ざり合い、「三沢の零戦実機がどうなったのか」という混乱を生む構造となったのです。
現場を訪れる際は、この映画用モックアップの圧倒的なクラフトマンシップと、三沢が背負ってきた航空史の重みという文脈を理解しておくことで、展示の意義をより深く味わうことができます。