全国の書道展や段位取得を目指す愛好家にとって、「伊都内親王願文」は憧れの古典であると同時に、もっとも挫折率が高い難関課題の一つとして知られています。SNSや書道専門フォーラム、実際の稽古場での声を取材すると、挑戦者の多くが共通の壁に突き当たっている実態が浮かび上がります。
書道教室の指導者や学習者の証言によると、「真似して書こうとすると、ただのトゲトゲしい乱暴な字になってしまう」「かすれを意識しすぎて線がスカスカになり、文字の芯が抜ける」「行全体が右に流れてしまい、紙面全体が崩壊する」といった悩みが頻出しています。形だけを追うと、逸勢の持つ高潔な品格が失われ、下品な悪筆に転落してしまう危険性を孕んでいるのです。
では、専門家が指摘する鑑賞のポイントおよび臨書の極意とはどこにあるのでしょうか。古筆研究の第一人者らの分析によれば、押さえるべき急所は以下の3点に集約されます。
- 筆の穂先(鋒先)の弾力を殺さないこと:鋭い線を出そうとして手首先でこじるのではなく、腕全体を使い、筆鋒の反発力を利用して弾くように運筆する。
- 文字内部の「白い空間(余白)」を見つめること:黒い墨線ばかりに気を取られると線が詰まります。文字の中の空間が菱形や鋭角に引き締まっている点に着目し、線の鋭さと同じ強度で余白を意識することが不可欠です。
- 連綿(文字の連続)における呼吸の継続:行草書特有の文字の繋がりにおいて、墨がかすれても筆圧の芯を抜かず、次の文字の起筆まで気脈を途切れさせない緊張感を保つ必要があります。
江戸時代中期の当代随一の能書家・近衛家熈(近衛予楽院)が、本作に心酔して精緻を極めた臨模本(現在、重要文化財指定)を遺していることからも分かるように、歴史上の大書家たちもまた、この願文の骨法を徹底的にトレースすることで自らの書を深めました。まずは部分的な拡大手本を用い、文字の中心軸がいかに通っているかを観察することが上達への最短ルートです。