茂木欣一のミュージシャンシップを特徴づけるもう一つの武器が、「ドラマーでありながらメインボーカルを張る」という圧倒的な多重能力です。
ドラムボーカルといえば、海外ではフィル・コリンズやドン・ヘンリー、国内ではC-C-Bの笠浩二などが知られますが、茂木欣一のスタイルはそれらとも一線を画します。裏打ちを多用する複雑なアップテンポのスカビートを正確無比に刻みながら、一切の音程ブレを感じさせずに、女性キーに迫る透明感あふれるハイトーンボイスを響かせるのです。
その代表格が、2003年のフジテレビ系ドラマ『美女か野獣』の主題歌に起用された名曲「銀河と迷路」です。作詞を谷中敦、作曲をNARGOが手がけたこの楽曲で、茂木はシングル表題曲として初めてメインボーカルを担当。疾走感あふれるビートと哀愁漂うボーカルのコントラストは社会現象となり、スカパラのお茶の間への浸透を決定づけました。また、田島貴男をフィーチャーした伝説的ナンバー「めくれたオレンジ」においても、ライブでは茂木自身がドラムを叩きながら伸びやかに歌い継ぐ演出が定番化し、ファンの胸を熱くさせ続けています。
この神業を支える機材へのこだわりもプロフェッショナルの間で高く評価されています。茂木は長年にわたり国内ドラムメーカー「CANOPUS(カノウプス)」のエンドーサーを務めており、自身のシグネチャースネアドラムをはじめとするセットアップには明確な美学が存在します。
- ワンタム・ワンフロアの潔い配置:複雑なタム回しに頼らず、スネア、バスドラム、ハイハット、ライドシンバルの鳴りを最大限に生かすミニマルな構成。
- 抜けの良いソリッドなスネアサウンド:大所帯ホーンセクションの爆音に埋もれない、輪郭のくっきりとした明瞭なアタック音を追求。
- マイクポジショニングのミリ単位の調整:ヘッドセットマイクやブームスタンドマイクを使用する際、ドラミングの打点移動を一切妨げず、呼気を的確に拾うセッティングを長年研究。
「歌うように叩き、叩くように歌う」。プロドラマーたちへのアンケートや専門誌の特集でも、「四肢の独立だけでなく、呼吸器官とリズムの中枢が完全に分離・連動している驚異のグルーヴマスター」と絶賛を集めています。