三木のり平の代名詞として日本人の記憶に深く刻まれているのが、株式会社桃屋の「江戸むらさき」や「ごはんですよ!」に代表される長寿アニメーションCMです。この名物CMが産声を上げたのは1958年(昭和33年)のことでした。日本の民間テレビ放送が黎明期を迎えていた時代に、実写ではなくアニメーションのキャラクターとして本人が登場するという画期的な演出が採用されました。
企画の立ち上げ時、桃屋側は「ただ商品を宣伝するのではなく、お茶の間にクスッと笑える温かい話題を届けたい」という明確なヴィジョンを掲げていました。そこで白羽の矢が立ったのが、当時すでに舞台や映画で独特のナンセンスギャグを炸裂させていた三木のり平でした。丸眼鏡をずらした愛嬌ある風貌をそのままキャラクターデザインに落とし込み、のり平本人がアテレコ(声の出演)を担当。パロディや時事ネタを巧みに取り入れたショートストーリーは爆発的な人気を獲得しました。
特筆すべきは、のり平本人が単なる声優にとどまらず、企画原案やセリフ回しのアイデア出しに深く関与していた点です。視聴者の耳に一瞬で引っかかる特徴的なダミ声と、絶妙な「ナンチャッテ」のイントネーションは、綿密な打ち合わせと試行錯誤の末に生み出された職人芸でした。このシリーズは日本のテレビコマーシャル史における最長寿記録の一つとなり、2026年現在も国民的キャラクターとして愛され続けています。