高校野球の歴史において、ファンの記憶に最も深く刻まれているのが「甲子園切符を手にしながら不祥事によって出場辞退へと追い込まれた強豪校」の悲劇です。努力が実を結んだ瞬間に突き落とされる現実は、関係者のみならず全国の高校野球ファンに強い衝撃を与えてきました。
その筆頭として語り継がれるのが、2005年夏の選手権大会における明徳義塾(高知)の出場辞退事件です。甲子園開幕の前日、日本高等学校野球連盟(高野連)に匿名の情報提供が寄せられ、部員による日常的な喫煙および下級生への暴力行為が発覚しました。組み合わせ抽選も終わり、開会式の入場行進練習を終えた直後という前代未聞のタイミングでの辞退劇となり、急遽、高知高校が代替出場する事態へと発展しました。当時の記者会見で学校関係者が深々と頭を下げ、言葉を詰まらせた姿は、高校野球界の危機管理の甘さを浮き彫りにした象徴的シーンです。
また、高校野球界の頂点に君臨し続けた名門・PL学園(大阪)の衰退劇も、度重なる部内暴力が引き金となりました。2001年の部内暴力による甲子園辞退にとどまらず、2013年春には上級生が下級生に対して手をあげる事案が再び表面化し、日本学生野球協会から6ヶ月間の対外試合禁止処分を受けました。名将の退任や指導者不在の混乱が重なり、独自の「付き人制度」をはじめとする苛烈な上下関係が社会問題視され、最終的に2016年夏をもって休部へと追い込まれる決定打となりました。
さらに2014年には、春夏連覇の経験を持つ済美(愛媛)において、2年生部員が1年生に対してカメムシを食べさせるといった悪質な部内いじめや暴力が発覚しました。高野連は「極めて陰湿で悪質」と断定し、1年間の対外試合禁止処分を下すとともに、当時の名将・上甲正典監督の謹慎(その後逝去)という痛ましい結末を辿っています。これらの事例は単なる個人の逸脱ではなく、密室化された組織内で暴力や理不尽が常態化していた実態を物語っています。