アンコールで披露されたアンコール・メドレーの終盤、『O Sole Mio(オー・ソレ・ミオ)』のサビに突入した瞬間、誰も予想していなかった伝説のドラマが起こります。パヴァロッティが「'O sole, 'o sole mio」のフレーズで、自身の代名詞とも言える超絶技巧のロングトーンに強烈なトリル(音を細かく震わせる装飾歌唱)を効かせて会場を沸かせました。
すると、次に歌う番だったドミンゴがいたずらっぽい笑顔を浮かべ、パヴァロッティのトリルを誇張するようにさらに大げさなビブラートとトリルで応酬。これには仕掛けた側のパヴァロッティも思わず破顔し、隣にいたカレーラスも堪えきれずに吹き出すという、極めて人間味あふれる掛け合いが展開されたのです。
この掛け合いはリハーサルには一切存在しなかった完全な即興アドリブでした。互いの圧倒的な実力を認め合い、心から音楽を楽しんでいたからこそ生まれた奇跡のハプニングであり、張り詰めたクラシックの厳格さを心地よく打ち破る名場面として語り継がれています。指揮棒を振るズービン・メータも満面の笑みでアイコンタクトを送り、オーケストラと観客の熱気は最高潮に達しました。