三千院を訪れたなら必ず足を運ぶべき核心部が、性格の異なる二つの名庭と歴史的建造物です。順路に沿って進むことで、計算し尽くされた視覚的・空間的体験が展開します。
拝観受付を抜けて客殿へ上がると、まず目の前に広がるのが「聚碧園(しゅうへきえん)」です。江戸時代の茶道家・金森宗和の修復と伝わる池泉観賞式庭園で、縁側に腰を下ろして額縁のように切り取られた緑の階調を鑑賞します。東側の山を借景とし、すり鉢状の柔らかな傾斜地に刈り込まれたサツキやツツジ、滝口から流れ落ちる清流の響きが、室内からの視線に完璧な均衡をもたらします。
客殿から宸殿(しんでん)を経て外へ出ると、視界は一転して広大な池泉回遊式庭園「有清園(ゆうせいえん)」へと開かれます。中国の詩人・謝霊運の詩「山水清有清」に由来するこの庭は、天を突く樹齢数百年の杉やヒノキの木立と、地面を覆い尽くすビロードのような青苔のコントラストが圧巻です。
有清園の奥に静かに佇むのが、三千院の象徴的存在である「往生極楽院(おうじょうごくらくいん)」です。平安時代末期(1148年建立と伝承)の簡素ながら力強いお堂で、建物の規模に対して堂内中央に安置された阿弥陀三尊像(国宝)がひときわ大きく堂々としています。巨像を納めるために天井を船底の形にくり抜いた「船底天井」には、極楽浄土へ舞い降りる天女や菩薩の極彩色壁画が描かれていました(現在は宸殿近くの円融蔵にて復元展示を鑑賞可能)。両脇侍の観世音菩薩・勢至菩薩が、正座して上半身を前傾させる「大和坐り(やまとずわり)」の姿勢をとっている点は、往生者をいち早く救いに行こうとする慈悲の深さを物語る極めて貴重な仏教彫刻の精華です。
そして、有清園の苔の海に溶け込むように佇んでいるのが、参拝者の心を和ませる「わらべ地蔵」です。彫刻家・杉村孝氏が昭和後期に手掛けたこれらの石仏は、苔の間からちょこんと顔を出し、首をかしげたり、寄り添ったり、寝そべったりと、無邪気で温かみのある表情を見せています。緑深い木漏れ日の中で見せる素朴な姿は、歴史ある古寺の厳粛さに温もりを添える絶好のアクセントとなっています。
境内の奥へと進めば、鎌倉時代中期の作とされる高さ約3メートルの石仏「おさな六地蔵」や、金色不動堂、観音堂が連なり、各所で授与される御朱印(薬師如来、阿弥陀三尊、金色不動明王など複数種)を求める参拝者の列が見られます。