三島文学の虚無を受け継ぎつつ、極上のエンターテインメントへと昇華させたのが、朝霧カフカ原作・春河35作画の『文豪ストレイドッグス(文スト)』です。劇中において「天人の五衰」は、国家を転覆させ、世界を破滅へと導く正体不明の凶悪テロ組織として登場します。
組織のメンバーは「天人の五衰」になぞらえた5人の幹部で構成されており、それぞれが規格外の異能と過去を抱えています。
① 福地桜痴(ふくち おうち)/首領「神威」:
表の顔は軍警最強の特殊部隊「猟犬」の隊長にして国民的英雄。その正体こそが五衰の首領「神威」です。異能「鏡獅子(かがみじし)」は、手にした武器の威力を100倍にする能力。さらに時空を超える神刀「雨御前」を操り、過去や未来を斬り裂く無敵の戦闘力を誇ります。
② フョードル・ドストエフスキー:
「地下組織・死の家の鼠」の頭領にして五衰の頭脳。異能「罪と罰」の詳細は長らく謎に包まれていましたが、その真の力は「自分を殺害した者の肉体を乗っ取り、その魂を支配して蘇る」という不死の憑依能力でした。太宰治をして「魔人」と言わしめる圧倒的な策謀家です。
③ ニコライ・ゴーゴリ:
道化師の衣装をまとう狂気の殺人鬼。異能「外套(がいとう)」は、自らの外套の内側を半径約30メートルの空間と接続し、物質や人間を瞬時に転移させる空間操作能力。自らの「完全な精神的自由」を証明するため、唯一無二の理解者であるドストエフスキーを自らの手で殺害しようと試みる哲学的な異常者です。
④ シグマ:
天空カジノの総支配人。現実を改変する「白紙の頁」によってわずか3年前に創り出された人工の人間。異能は「触れた相手の最も知りたい情報と、相手が自分について最も知りたい情報を強制交換する」能力。常人離れした怪物たちの中で唯一「凡人」の感覚を持ち、自分の居場所(カジノ)を守るために必死に生きています。
⑤ ブラム・ストーカー:
北欧の吸血種貴族であり、かつて福地に敗れて首だけにされ、聖剣によって封印・利用されていた哀しき「第5の使徒」。自らの眷属を無限に増殖させ、人類をアンデッド(吸血種)へと変異させる破滅的な感染異能を有しています。
物語の核心である「福地桜痴の真の目的」は、単なる悪の世界征服ではありませんでした。かつて凄惨な世界大戦の前線に送られ、政治家たちの都合で数多の戦友を無惨に殺された福地は、「国家」という枠組みが存在する限り、兵士が使い捨てられる戦争は永遠に終わらないと悟ったのです。
彼の真の目的は、白紙の頁を用いて世界を極限の危機に陥れ、自らが悪の頂点となって世界中を一つの「人類連合軍」に統合させ、その後に自分が討たれることで「国家間の戦争を地球上から消滅させる」ことでした。自らを完全な悪として世界に捧げるという、壮絶にして悲痛な救済計画――それこそが文ストにおける「天人の五衰」の真相だったのです。