「最初は喉の風邪だと思い、近所の内科で抗生剤とうがい薬をもらいました。しかし3日経っても熱は38度台から下がらず、首の右側が触れないほど腫れ上がり、痛みが右耳の奥や下顎まで突き抜けるようになったのです」。これは、都内の会社員Aさん(42歳・女性)が闘病の手記に遺した生々しい証言です。首を左右に動かすことすらできず、服の襟が患部に触れただけで飛び上がるほどの苦痛に襲われました。
臨床現場において、亜急性甲状腺炎の風邪誤診は後を絶ちません。発症の1〜3週間前に風邪のような上気道感染症状を経験しているケースが多く、患者自身も医師も咽頭炎や扁桃炎、リンパ節炎を疑ってしまうためです。しかし、通常の咽頭炎と決定的に異なるのは「痛みの局在」です。喉の粘膜ではなく、喉仏のすぐ下にある甲状腺そのものに強い圧痛が存在します。
さらに特徴的なのが、痛みが耳の奥へ抜ける放散痛と、炎症の移動(クリーピング現象)です。初めは甲状腺の右葉だけが腫れて痛んでいたものが、数日から1週間ほど経過すると右側の痛みが和らぐ代わりに左葉へと炎症が移り、今度は左耳の奥が激しく痛み始めます。日本甲状腺学会の指針でも、甲状腺の腫れと耳の奥の痛みが連動する移動性の圧痛は、本症を強く疑う重要所見として位置づけられています。