多くのリスナーが混同しやすいのが、スタジオジブリ公式サウンドトラックに収録されているインストゥルメンタル「あの夏へ(One Summer's Day)」と、ボーカル曲「いのちの名前」の成り立ちです。
映画『千と千尋の神隠し』の本編において、10歳の少女・千尋が両親とともに車で不思議な町へと迷い込んでいくオープニングシーンで流れるのは、久石譲によるピアノとオーケストラ演奏の「あの夏へ」です。この時点では言葉を持たない純粋な劇伴音楽(劇中BGM)として設計されていました。
しかし、宮崎駿監督の描く圧倒的な世界観と少女の成長譚に強く共鳴した制作陣のもと、映画公開に先駆けて制作されたイメージアルバムや関連企画において、作詞家の覚和歌子がメロディに言葉を紡ぐプロジェクトが進行しました。覚和歌子は、映画の主題歌である「いつも何度でも」(歌・作曲:木村弓)の作詞を手掛けた人物でもあり、宮崎作品の深層心理を見事に言語化する稀代の詩人です。
こうして完成した「いのちの名前」は、2001年の映画公開以降、久石譲のコンサートや2008年の武道館記念公演(久石譲 in 武道館 〜宮崎アニメと共に歩んだ25年間〜)において、圧倒的な歌唱力を誇る平原綾香がフィーチャリングボーカルとして歌い上げたことで、一気に国民的認知を獲得するに至りました。言葉を削ぎ落とした純音楽としての「あの夏へ」に対し、「いのちの名前」は物語のテーマである“生命の記憶”を詩情豊かに具現化した楽曲という決定的な違いが存在します。