フィクションの中の狂気を現実世界へ持ち込んだのが、YouTubeチャンネル「樽江突撃」を運営する一般の配信者です。発端は2020年1月16日。『HUNTER×HUNTER』の休載が長期化するなか、「連載が再開されるまで毎日千回の感謝の正拳突きを行う」と宣言し、生配信を開始しました。
当初の配信は、部屋の片隅で新品の真っ白な道着に身を包み、おぼつかない足取りと乱れた呼吸で約2時間をかけて千回を突くという、お世辞にも武道家とは呼べない素朴な姿でした。コメント欄も「数日で諦めるだろう」「ただの売名行為」といった冷ややかな嘲笑が目立っていたのが実情です。
しかし、季節が巡り年が変わっても、樽江氏の配信は一日たりとも途絶えませんでした。突きの動作は日を追うごとに洗練され、無駄なブレが消え、所要時間も30〜40分前後へと大幅に短縮。そして何より視聴者の目を釘付けにしたのが、身に纏う道着の驚くべき変貌です。
日々の猛烈な発汗、布地同士の激しい摩擦、そして繰り返される洗濯によって、純白だった道着は徐々に黄ばみ、襟元から繊維がほつれ始めました。開始から1年、2年と経過するうちに袖は千切れ、背中はパックリと裂け、両肩の布地は完全に崩壊。最終的には原型を留めず、まるで歴戦の武具や修行僧の襤褸(ぼろ)布を纏っているかのような壮絶なビジュアルへと変貌を遂げたのです。
この道着の崩壊プロセスは、編集で偽ることのできない「実時間」の蓄積を雄弁に物語っていました。冷笑していたネットユーザーたちも、ボロボロになってなお静寂の中で拳を突き出し続ける姿に次第に畏敬の念を抱き始め、いつしか「現代のネテロ」「本物の求道者」と呼ぶようになっていきます。