「O型は血が甘いから蚊に刺されやすい」という説を耳にしたことがある人は多いだろう。しかし、最新の分子皮膚科学と生物行動学が解き明かした真相は、そうした俗説とは大きく異なる。蚊が人間の血を吸う際、血液そのものの味や糖度を遠くから嗅ぎ分けているわけではない。ターゲットを選別する第一段階は、皮膚表面に分泌される物質の組み合わせにある。
害虫防除技術研究所の所長である白井良和氏をはじめとする研究チームは、日本国内で最も普遍的に見られるヒトスジシマカを用いた厳密な着空実験を実施してきた。実験では、異なる血液型の被験者の腕や皮膚分泌物を特殊な透過性フィルムで覆い、蚊の吸血飛来数をカウント。その結果、最も高い飛来率を示したのがO型であり、次いでB型、AB型、そしてA型という明確な格差が浮き彫りとなった。
この現象の鍵を握るのが、近年発足した「血液型と蚊の吸血選好性研究プロジェクト」でも注目を集める皮膚表面の赤血球型糖鎖(H抗原)の分泌量だ。人間には、唾液や汗、皮膚皮脂膜に血液型物質を分泌する「分泌型」と、分泌しない「非分泌型」が存在する。O型の分泌型体質の人は、皮膚表面にH抗原前駆体物質が強く発現しており、これが汗に含まれる乳酸や脂質代謝物と結合することで、ヒトスジシマカの感覚器を強く刺激する独自の臭気シグナルを形成していたのだ。