ドン・キホーテの代名詞とも言えるのが、床から天井近くまで商品がうずたかく積み上げられた「圧縮陳列」です。通路は狭く曲がりくねり、どこに何があるのか一目では把握できません。防災面での安全基準を厳格にクリアした上で構築されるこの空間構造には、明確な行動経済学的アプローチが隠されています。
人間は整然と整理されたスーパーでは「必要なものだけを最短ルートでカゴに入れて退店する」という合理的行動を取ります。しかし、視界全体が情報過多になるドン・キホーテの迷路空間に入ると、脳内では「探索モード」のスイッチが入ります。これがいわゆる「宝探し感(トレジャーハンティング効果)」です。角を曲がるたびに予期せぬ特価品と遭遇するランダムな報酬体験がドーパミンを分泌させ、気づけば当初買う予定のなかった商品まで買い物カゴを満たしていきます。
手書きのド派手な「ドンキ文字」によるPOPも計算された演出です。商品のスペックではなく、「担当者が思わず仕入れすぎちゃいました!」「他店に対抗して赤字覚悟!」といった感情に訴えかけるナラティブ(物語)を付与することで、消費者の価格感性を麻痺させ、納得感を伴った購買決定へと誘導しています。