地震が発生した瞬間、地下の断層破壊面からはあらゆる方向へ向けて巨大な波動エネルギーが放出されます。このとき地中を伝わる波は1種類ではなく、性質も速度も全く異なる複数の波が同時に発生しています。その代表格が、地下の岩盤内部を伝わる体積波である「P波」と「S波」です。
日常の体感として「最初に小さな揺れが来て、後から大きな揺れが来る」理由は極めて単純です。P波の伝わる速度がS波よりも圧倒的に速いため、観測地点へ先に到達するからです。気象庁や地震工学の定義において、最初に到達するP波による小刻みな揺れを初期微動、遅れて到達するS波による大きな揺れを主要動と呼びます。
縦波と横波の構造的差異
P波は英語の「Primary wave(最初の波)」の頭文字を取ったもので、波の進行方向と同じ向きに媒質(岩盤)が伸縮を繰り返す縦波(疎密波)です。音波と同じ原理で地中を圧縮・伸長しながら突き進むため、地上では「カタカタ」という小刻みな上下動や初期の微小な揺れとして感知されます。
一方のS波は「Secondary wave(2番目の波)」を意味し、波の進行方向に対して垂直に媒質が歪む横波(ねじれ波)です。地表を左右や前後に大きくねじるように揺さぶるため、建物を破壊する強烈な水平力を生み出します。
伝わる速さの理由:岩盤の弾性力学
なぜ縦波であるP波は速く、横波であるS波は遅いのか。その理由は、物質が持つ弾性係数の違いにあります。岩盤力学の基礎方程式において、縦波の速度は「体積弾性率」と「剛性率(せん断弾性率)」の双方に依存するのに対し、横波の速度は「剛性率」のみに依存します。
岩石は押し縮める力(体積変化)に対して非常に強い反発力を示しますが、形を歪ませる力(せん断変形)に対する復元力はそれよりも小さくなります。この物理的性質の差により、地殻内においてP波は秒速約5〜7km、S波は秒速約3〜4kmと、ほぼ1.7倍から2倍近い速度差が生じるのです。