この時期、多くの母親を精神的に追い詰めるのが「母乳が足りていないのではないか」という強い強迫観念です。授乳直後にもかかわらず赤ちゃんが激しく泣いて乳首を求め続けるため、母乳不足を疑って自分を責めてしまうケースが頻発します。
しかし、母乳外来の臨床現場では、これを「クラスター授乳(頻回授乳の波)」と呼びます。赤ちゃんの急激な体重増加要求に対し、母乳の分泌量を増やそうと赤ちゃん自らが吸啜刺激を送り続けている生理的行動です。本当に母乳が不足しているかどうかは、泣き声の大きさではなく以下の客観的指標で判断します。
- 体重増加の推移:1日あたり25〜30g以上の増加が維持できているか(小児科や地域保健師の測定)。
- おしっこの回数:薄い色の尿を含んだオムツが1日6回以上交換できているか。
- 排便の状態:母乳栄養児特有の十分な軟便が連日出ているか。
これらの数値基準を満たしている場合、泣きの原因はお腹が空いているからではなく、小児医学で「新生児の黄昏泣き(コリック/乳児仙痛)」と呼ばれる原因不明の発達的啼泣である可能性が極めて濃厚です。近年では「PURPLE Crying(パープル・クライング=予測不能で薬も効かず、夕方に集中して激しく泣く正常な発達段階)」という概念の周知が進んでいます。栄養不足を過度に疑って急激にミルクを過剰追加すると、かえって腹部膨満感を招いて赤ちゃんの苦痛を増大させる盲点があるため、冷静な見極めが欠かせません。