完成した新幹線は、工場からそのまま線路を走って納品されるわけではありません。鉄道ファンのみならずSNSでも大きな話題となるのが、深夜の一般道を巨大な車両がゆっくりと移動する深夜陸送の光景です。
なぜ線路を使わずに、わざわざ道路を走らせる必要があるのでしょうか。そこには日本の鉄道インフラにおける決定的な物理的要因が存在します。
- 線路の幅(軌間)の違い:日本の在来線の線路幅は1,067mm(狭軌)ですが、新幹線は1,435mm(標準軌)を採用しています。多くの車両工場は在来線としか線路が接続しておらず、工場から新幹線の線路へ直接乗り入れることが構造上不可能です。
- 車体寸法の制限(車両限界):新幹線の車体幅は約3.38mで、在来線の約2.95mに比べて大幅に広く設計されています。仮に軌間を合わせる特殊な仮台車を履かせたとしても、在来線のトンネルやホーム、架線柱に車体が接触してしまいます。
このため、車体はクレーンで専用の大型多軸トレーラー(通称:ヤッコ)に載せられ、交通量が激減する深夜1時から4時頃にかけて、警察の先導と誘導員の厳重な監視のもと時速10〜20kmで輸送されます。港が近い笠戸事業所や川崎車両からは、専用船に積載して海路で各拠点の港まで運ばれ、そこから車両基地へと陸送されるケースも多く見られます。
車両基地に到着した車体は、最終関門である台車 組み立て工程に入ります。時速300kmを超える高速回転と微細な振動を制御する台車枠、空気ばね、車体傾斜装置、ディスクブレーキが組み合わされ、車体とドッキング。専用の試験線において、ミリ単位の車輪バランス測定やブレーキ制動試験といった過酷な安全基準クリアを経て、本線での試運転へと旅立ちます。