この庭園の歴史は、明治39年(1906年)に博多の豪商・下澤善右衛門が建てた別荘にさかのぼる。下澤は茶人としても名高く、自身の雅号「楽水」を冠した茶室を設けた。当時の商人が私財を投じて求めたのは、商取引の慌ただしさから離れ、一服の茶と向き合うための精神的な聖域だった。
庭園の一角に据えられた水琴窟(すいきんくつ)に耳を傾けてみる。竹筒に耳を近づけると、地中の甕(かめ)に落ちる水滴が「キーン」と涼やかで透明な金属音を奏でる。イヤホンで音楽を聴き流すことの多い現代人にとって、環境のノイズを遮断し、かすかな一滴の音に全神経を集中させる体験は、何より贅沢なマインドフルネスだ。