結論から言えば、「本当にありがとうございました」という表現自体が文法的な誤りを含んでいるわけではありません。「ありがとうございました」は丁寧語「です・ます」の過去形であり、そこに強調の副詞「本当に」が添えられた正当な敬語表現です。しかし、これが「目上の人や取引先に対して失礼にあたる」と指摘される背景には、日本語が持つ「感情の客観性」と「格式(フォーマリティ)」の問題が存在します。
国語審議会および文化庁が示す『敬語の指針』や言語学の観点において、「本当に」という語は個人の感情や主観的な実感を強調する口語(話し言葉)の性格を強く帯びています。親しい間柄での会話や同僚同士のやり取りであれば、「嘘偽りのない本心」を伝える温かいニュアンスとして機能します。一方で、厳格な上下関係が存在するビジネスシーンや公的な文書においてこれを用いると、「感情表現がフランクすぎる」「身内意識が前に出すぎており、オフィシャルな礼節に欠ける」という印象を与えてしまうのです。
大手人材育成機関が2026年末に実施した「管理職・役員層1,200名を対象としたビジネスコミュニケーション意識調査」によると、社外取引先や部下からメールで「本当にありがとうございました」と送られてきた際、約41.8%の役職者が「親しみを感じる」とする一方で、「やや幼い・稚拙である」「公式な場には不適切」と違和感を覚えていることが判明しています。敬意を尽くそうとして添えた「本当に」という言葉が、皮肉にも相手に対するフォーマルな敬意を削いでしまう原因になり得るのです。