豪華絢爛なシャンデリアや大理石の暖炉が並ぶ旧前田侯爵邸洋館を訪れた見学者が、真っ先に抱く疑問が「なぜこれほどの文化遺産が無料なのか」という点です。民間施設や多くの歴史的建造物であれば、数百円から千円前後の入場料が設定されていても不思議ではありません。
結論から言えば、旧前田家本邸が目黒区および東京都が所有・管理する公有財産であり、広く都民・国民に文化財の価値を還元する方針が採られているためです。目黒区の郷土資料や公式アーカイブによると、この邸宅は昭和4年(1929年)の完成後、第二次世界大戦中の利為の急逝、終戦後の昭和20年(1945年)にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)によって接収された過去を持ちます。当時は連合軍第5空軍司令官らの宿舎として利用され、華族の手を離れることになりました。
昭和32年(1957年)に接収が解除された後、民間の開発による解体の危機に直面したものの、文化財としての価値を惜しむ声が高まり、昭和39年(1964年)に東京都が敷地を買収。「駒場公園」として整備され、洋館は目黒区に移管(敷地管理や建物保存は都・区で連携)されました。平成25年(2013年)には国の重要文化財に指定され、2016年から2018年にかけての大規模な耐震・復元改修工事を経て、昭和初期の華麗な姿が完全に蘇りました。公費によって維持管理されている公立公園内の文化財だからこそ、誰もが気軽に本物の歴史に触れられる無料公開が維持されているのです。