老舗割烹や天ぷら専門店において、板前が最初に行うのが「熱の通り道を整える切り方」と「徹底的な表面水分のコントロール」です。
油を極力吸わせず、短時間で均一に火を通すための代表的な技法がなすの扇(末広)切りです。ヘタを残してガクをぐるりと剥き、縦に1本深く切れ込みを入れて半分にした後、先端に向かって5〜7本の細いスリットを均等に入れます。そして揚げる直前に指先で軽く押し広げて「扇」の形状に整えます。
この扇状にする切り方には、単なる見た目の美しさだけではない合理的な機能があります。表面積を広げることで、180℃前後の熱油となすの果肉が触れる時間を最小限に抑え、わずか90〜120秒という短時間で中心まで均一に火を通すことが可能になります。蒸気抜けが格段に良くなるため、衣の中に余分な水分が滞留しません。
また、下処理において「水にさらして長時間アク抜きをする」のは家庭料理における最大の落とし穴です。過剰に水気を吸わせると、揚げ油に投入した際に油温を急激に下げ、衣をふやかしてしまう原因になります。鮮度の良いなすであれば、切った直後に表面に浮き出たアクと水分をキッチンペーパーでしっかりと拭き取るだけで十分です。その後、ごく薄く薄力粉をはたく「打ち粉」を施すことで、なすと衣の密着度が高まり、油の侵入を防ぐ強固なバリアが完成します。