台湾における売春をめぐる議論は、二大陣営による価値観の対立が続いています。一方は「当事者の労働権と人権擁護」を主張する性労働者支援団体であり、もう一方は「女性搾取の根絶と治安・風紀の維持」を掲げる婦人保護団体や保守派・宗教団体です。
日日春關懷互助協會をはじめとする支援グループは、売春の全面違法化が当事者を暴力被害や搾取のリスクに晒していると指摘します。現場で働く女性の手記や公の証言では、「警察の摘発を恐れるあまり、客からの暴力や金銭トラブルがあっても通報できない」「違法とされることで、より悪質なブローカーに依存せざるを得ない」といった悲痛な実態が語られています。これらの団体は、性産業特区という実現性の低い制度ではなく、性取引そのものの非犯罪化(Decriminalization)を求めています。
対照的に、婦女救援基金会などの人権団体は、売買春の背景にある構造的なジェンダー不平等や経済的困窮を重視します。性産業を安易に合法的な職業として認めることは、貧困層の女性や人身売買被害者の固定化につながると警鐘を鳴らし、買春者側のみを厳罰化して売春従事者を保護・救済する「北欧モデル」の導入を提案しています。立法院(国会)でも定期的に法改正動向が議論されるものの、世論を二分するテーマであるため、抜本的な合意形成には至っていません。