日本国内の居住環境において、年間を通じて屋外で理想的な直射日光を確保し続けることは容易ではありません。そこで主流となったのが室内LED栽培ですが、安易な機材導入によって「光量不足による無残な徒長」を引き起こすケースが相次いでいます。徒長とは、光を求めて葉が薄く細長く伸び、中心部がだらしなく開いてしまう現象です。一度徒長した葉が元のように分厚く短く戻ることは決してありません。
アガベの徒長防止の秘訣は、「光量(光量子束密度:PPFD)」「照射時間」「通風(気流)」「温度管理」の4要素を精密に連動させることに集約されます。
まず照明選びにおいて、インテリア用の一般的な間接照明や安価な植物育成用ライトでは光量が絶望的に足りません。アガベをコンパクトかつボール状に引き締めて育てるためには、成長点付近で最低でもPPFD 600〜1000μmol/m²/s以上(照度換算で約50,000〜80,000ルクス相当)の強い光エネルギーが必須となります。照射距離は20〜30cm程度に保ち、照射時間は1日あたり12〜14時間でタイマー管理するのが鉄則です。24時間連続照射は厳禁であり、前述のCAM型光合成を成立させるため、最低でも8時間以上の完全な暗期(消灯時間)を確保しなければなりません。
そして、照明と同等かそれ以上に決定的な役割を果たすのがサーキュレーターによる送風です。国内トップナーセリーの代表者が専門誌の取材で「風のない強光は、植物にとってただの火炎放射器に過ぎない」と警鐘を鳴らす通り、強光下で無風状態が続くと葉の表面に熱がこもり、組織が壊死する「葉焼け」を即座に引き起こします。葉焼け対策の基本は、株の周囲に風速1.0〜2.0m/sの微風を24時間絶え間なく当てることです。気流によって葉表面の境界層が破壊され、蒸散が促されて気化熱で葉温が数度低下します。さらに、風による物理的刺激(接触屈性)は植物ホルモンであるエチレンの生成を促し、茎や葉を太く短く頑強に育てるシグナルとなります。