「なぜ、思い切り叫ぶと一瞬で声が枯れるのか」。その謎を解く鍵は、喉の奥にある2種類のヒダの役割分担にあります。私たちが日常の会話やクリーンボイスで歌う際に振動させているのは「真声帯(しんせいたい)」と呼ばれる粘膜の帯です。シャウトの出し方を知らない初心者が力任せに大声を張り上げると、この真声帯同士が猛烈なスピードと圧力で激突し続けます。その結果、繊細な粘膜が内出血を起こして腫れ上がり、最悪の場合は声帯結節やポリープを形成してクリーンな発声すら失う事態に陥ります。
喉頭内視鏡(喉カメラ)を用いた近年の発声バイオメカニクス研究によって、デスボイス発声時の喉の構造と真相が明確に可視化されました。プロのロックボーカリストが激しいスクリームを行っている最中、実は真声帯は完全に閉じられて保護されているか、あるいは最小限の負担しかかかっていません。歪み成分を担っているのは、真声帯のすぐ上部に位置する「仮声帯(フォールスコード)」や、喉頭蓋周辺の軟部組織です。
シャウトの喉を痛めない出し方の大前提は、真声帯をクラッシュさせる危険な摩擦から解放し、本来は発声に使われない「仮声帯」などの周辺組織へ振動の主役をシフトさせる身体操作にあります。声帯で音を歪ませるのではなく、声帯が作った音(原音)の上に気流の乱気流や仮声帯のバタつきを重ね合わせる。この根本原理を理解しないまま気合や怒鳴り声で代用しようとすることこそが、喉を痛めてしまう唯一にして最大の原因です。