NHK連続テレビ小説の枠組みを根底から塗り替えた『おしん』。その全297回の物語の中で、最も波乱に満ちた青春期から壮年期を一身に背負ったのが田中裕子だった。小林綾子が演じた少女期の切ないバトンを受け取り、物語のエンジンを一気に加速させた彼女の演技は、瞬く間に日本社会を巻き込む「おしんドローム」へと昇華した。
早朝の放送時間帯になると街から人が消え、水道の使用量が急減する。そんな都市伝説すら生まれた時代。田中裕子が体現した「おしん」は、経済成長の陰で忘れ去られようとしていた日本人の忍耐と愛情のシンボルとなったのである。