1984年、ある一冊の詩画集が出版界に激震を走らせた。『にんげんだもの』である。当時、無名に近かった書家の作品集を世に送り出す決断を下したのは、ファッション誌などを主力としていた文化出版局だった。いわゆる従来の枠組みに収まらない異端の書に対し、出版・メディア業界の内部では当初、懐疑的な視線も少なくなかったという。
しかし、発売されるや否や口コミで爆発的な広がりを見せ、単行本としては異例のミリオンセラーを記録する。書店の平台に平積みにされたその本は、普段あまり詩集や書画に触れない一般のサラリーマンや主婦たちの手へと次々に渡っていった。時代の変わり目にあった日本社会で、人々は小難しい理屈ではなく、心の急所に直接突き刺さる本物の言葉を渇望していたのだ。