『カーネーション』を語るうえで欠かせないのが、ヒロインの人生を大きく揺さぶった2人の男性、父・善作と恋人・周防亮の存在です。
小林薫が演じた父・善作は、頑固で保守的な昔気質の父親像を圧倒的なリアリティで体現しました。糸子が洋裁の道に進むことに激怒し、ミシンを蹴飛ばし、取っ組み合いの大喧嘩を演じるシーンは朝ドラ屈指の名場面です。しかし、誰よりも娘の才能を見抜き、火災保険の加入や店の開店準備を裏で整えていたのは善作でした。小林薫の抑えた演技から滲み出る不器用な親心は、視聴者の涙を誘いました。
そして、作品の中盤から後半にかけて絶大なインパクトを残したのが、綾野剛演じる紳士服職人・周防亮です。長崎で被爆し、妻子を養うために大阪へ流れ着いた影のある青年・周防。互いの才能を認め合い、仕事を通じて惹かれ合っていく2人の関係は、朝ドラのタブーとも言える「既婚者同士の許されざる恋」でした。
史実における小篠綾子にも、戦後に仕事のパートナーとして支え合い、事実上の愛人関係にあった紳士服仕立て職人の男性が存在していました。ドラマではこのセンシティブな実話を逃げることなく描き、岸和田の岸壁で交わされる静かで切ない情愛を見事に表現。綾野剛はこの周防役で見せた憂いのある色気と繊細な演技によって一躍大ブレイクを果たし、全国的な知名度を獲得することとなりました。