『はだしのゲン』に描かれた迫害描写の数々は、単なるフィクションではありません。作者である漫画家・中沢啓治氏の実体験に基づく真相が色濃く反映されています。
中沢氏の実父・晴海(はるみ)氏は、漆芸家として活動するかたわら、反戦的な演劇活動に関わっていた人物でした。実際に治安維持法違反の疑いで特高警察に検挙され、約1年2か月にわたる過酷な獄中生活と拷問を経験しています。出獄後も一家は近所から「非国民」と後ろ指を指され、幼少期の中沢氏自身も石を投げられるなどの激しい差別に耐え忍びました。
そして1945年8月6日、広島への原爆投下という史実が一家を襲います。爆心地から約1.2キロの自宅で、父・晴海氏、姉、弟は崩壊した家屋の下敷きとなり、猛火の中で生きたまま焼き殺されるという非業の死を遂げました。戦前の激しい迫害と原爆による家族の喪失という二重の悲劇を生き延びた中沢氏の魂の叫びこそが、本作の原動力となっているのです。