多くの人々が記憶に新しいのは、スタジオジブリによる同名映画の世界的ヒットだろう。しかし、宮崎駿監督が手がけた劇場アニメーション映画は、原作の忠実な映像化では決してない。映画版は、第二次世界大戦下の少年・眞人が幻想的な異世界を旅する冒険劇であり、吉野の小説はその世界観の中で主人公が母親から遺された「本」として象徴的に登場するにとどまる。この致命的とも言える物語上の相違点こそが、両者の対話を深める重要な鍵となっている。
宮崎駿は原作のストーリーをなぞるのではなく、作品が持つ精神的遺産と直接格闘することを選んだ。映画産業における商業的娯楽の枠組みを突き抜け、監督自身の生い立ちや死生観、クリエイターとしての苦悩を劇中に投影している。吉野の小説が「どう生きるべきか」という問いを言葉で緻密に組み上げたのに対し、ジブリのアニメーション映画は「失意と混乱に満ちた世界で、それでも君はどう生きるのか」という問いを視覚的イメージと圧倒的な生命力で突きつける。この二つの作品は、対立するのではなく、時代を超えて響き合う二重奏なのだ。