ソーシャルメディアやQ&Aサイト(知恵袋、5ちゃんねる等)を観察すると、「親指の爪に黒い線ができて半年間消えない」「写真で見たメラノーマの初期症状にそっくりで夜も眠れない」という切痛な投稿が年間を通じて途切れることがありません。特にスマートフォンの高解像度カメラで患部を過度に拡大撮影し、影や色ムラを悪性所見と誤認して重度のパニック(サイバーコンドリア)に陥る事例が多発しています。
皮膚科の臨床現場における実態はどうでしょうか。日本皮膚科学会の専門医らによる報告や外来統計によれば、爪の黒色変化を主訴に受診する患者のうち、実際に悪性黒色腫と最終診断される割合は1%未満に過ぎません。圧倒的多数は良性の爪下血腫か、体質的な爪甲色素線条です。
ある大学病院の皮膚腫瘍外来担当医は、取材に対してこう証言しています。「爪下血腫は爪が伸びる速度(手の爪で1ヶ月に約3mm)に合わせて先端に移動し、半年もすれば自然に切り落とされて消失します。一方で爪甲色素線条は爪母そのものに色素沈着があるため、何年経っても消えません。『消えないから即がんである』と早合点して過呼吸寸前で駆け込んでくる患者さんが後を絶ちませんが、良性のほくろも皮膚と同じで一生涯消えないのが自然な姿なのです」。