古くから日本全国で語り継がれてきた「食べてすぐ横になると牛になる」という言い伝え。そのルーツを辿ると、礼儀作法を重んじる江戸時代の町人文化や農耕社会の戒めに突き当たります。食事の直後に横臥する姿は行儀が悪く、怠惰の象徴とみなされたため、親が子どもを躾けるための「方便」として定着した側面が極めて強かったと歴史資料からも読み取れます。
さらに、牛は一度飲み込んだ飼料を再び口の中に戻して噛み直す「反芻(はんすう)」を行う動物です。食後にじっと寝そべって反芻を繰り返す牛の生態と、人間がだらしなく横たわる姿を重ね合わせた揶揄でもありました。
ところが、2020年代半ばの解剖生理学において、この戒めは「半分正しく、半分は誤り」であることが判明しています。食後に激しく動き回ると、全身の骨格筋に血液が分散し、胃や腸といった消化管への血流が阻害されて消化不良を招きます。つまり、「激しく動かず安静にする」という点において、食後に体を休める行為そのものは人体の機能維持にとって極めて理に適った防衛反応なのです。