「カニの頭に入っているから脳みそだろう」という俗説は、現代でも根強く残っています。しかし、生物学的な見解を結論から言えば、カニ味噌と脳みその違いは歴然としています。甲殻類であるカニの脳(食道上神経節)は、左右の眼の付け根付近に位置するわずか数ミリ大の極小組織にすぎず、私たちがスプーンですくって食べるほどの体積はありません。
では、あのねっとりとしたかにみその正体は一体何なのか。それは「中腸腺(ちゅうちょうせん)」と呼ばれる、人間でいう肝臓と膵臓の機能を兼ね備えた消化腺器官です。学術的には「ヘパトパンクレアス(hepatopancreas)」とも称され、かにみその部位としての役割は、摂取した餌の消化・吸収、そして余剰エネルギーを脂質やグリコーゲンとして蓄積することにあります。
中腸腺には、強力な消化酵素と高濃度の遊離アミノ酸、さらに良質な脂質が凝縮されています。舌の上でとろけるような滑らかさと重厚な旨味は、まさにこの器官が生命維持のために蓄え込んだ栄養素そのもの。見た目が調味料の「味噌」に似ていることから市場でそう呼ばれ定着したにすぎず、高度な生命活動が生み出した天然の旨味の塊なのです。