お盆の時期に飾られる夏野菜の細工は、仏教の盂蘭盆会(うらぼんえ)と日本古来の祖霊信仰が融合して定着した風習です。きゅうりで作るものを精霊馬、なすで作るものを精霊牛と呼び、あわせて「精霊馬」と総称されるケースも多く見られます。この2つの野菜が選ばれ、それぞれ異なる動物に見立てられている背景には、子孫から先祖に対する切実な優しさと敬慕の情が息づいています。
きゅうりを「馬」に見立てる理由は、その足の速さにあります。1年に1度、あの世(彼岸)から現世(此岸)へと帰ってくるご先祖様に対し、「1分1秒でも早く我が家に辿り着いてほしい」という願いから、俊足の馬が移動手段としてあてがわれました。みずみずしく細長いきゅうりの形状が、引き締まった駿馬の姿を連想させたことも定着を後押しした要因です。
一方、なすを「牛」に見立てる理由は対照的です。供養を終えてあの世へ戻っていくご先祖様に対し、「名残惜しいので、どうか急がずゆっくりと景色を眺めながら帰ってほしい」という別れを惜しむ心情が込められています。さらに、ずんぐりと太く力強い牛の背中には、子孫が捧げたたくさんのお供え物や土産物をしっかりと載せて持ち帰ってもらうという意味合いも重なっています。旬の豊かな実りを供えつつ、家族の情愛を乗り物のスピード感に託した先人たちの繊細な心遣いが、この伝統を形作っています。