多くの来館者が最初に抱く「なぜ大阪南部の和泉市にこれほどの国宝・重要文化財が集まっているのか」という疑問の答えは、泉州地域の近代化を支えた産業史と、一族の高潔なメセナ(文化支援)精神にあります。
美術館の母体となったのは、江戸時代から綿織物業を営み、明治から昭和にかけて一大企業へと発展した「久保惣株式会社」です。同社の三代目・四代目社長を務めた久保惣太郎氏をはじめとする久保家は、長年にわたり東洋古美術の収集に情熱を注ぎました。1977年、四代目久保惣太郎氏の遺志に基づき、久保家から美術品約500点と本館建物、敷地、そして維持管理のための基金が和泉市へ一括寄贈され、1982年に市立美術館として開館しました。
単なるコレクションの寄贈にとどまらず、美術館の運営基盤となる基金や広大な土地まで含めて自治体に託したという事実は、日本の企業メセナ史上でも極めて稀有な事例です。その後も有志やコレクターからの寄贈が相次ぎ、現在の所蔵品は中国の陶磁・青銅器・石仏から、日本の絵画・書跡・浮世絵、さらにはモネやルノワールといった西洋近代絵画に至るまで、約1万1,000点以上に拡大しています。
所蔵品の頂点に君臨する国宝および重要文化財の一覧と代表作は以下の通りです。
- 国宝『青磁鳳凰耳花生 銘 万声(せいじほうおうみみはないけ めい ばんせい)』:南宋時代の中国・竜泉窯で作られた青磁の最高峰。澄み渡る砧青磁の釉調と、鳳凰をかたどった耳の造形美は世界的な名品として知られます。
- 国宝『歌仙歌合(かせんうたあわせ)』:平安時代の雅な美意識を今に伝える古筆跡の優品。
- 重要文化財『枯木鳴鵙図(こぼくめいげきず)』(宮本武蔵筆):剣豪・宮本武蔵が描いた水墨画の最高傑作。寒風吹きすさぶ枯れ枝の頂に止まる百舌鳥(モズ)と、下から這い上がる毛虫の緊迫した構図は、武蔵の研ぎ澄まされた精神性と剣の極意を宿していると高く評価されています。
- 重要文化財『佐竹本三十六歌仙切(小野小町)』をはじめとする絵巻切や仏画、中国古代青銅器など計29件の重文群。
これらの国宝・重要文化財は文化財保護の観点から常設展示はされておらず、春・秋を中心とした特別展や企画展のスケジュールに合わせて期間限定で公開されます。訪問を検討する際は、公式発表の展覧会スケジュールを事前に照合することが不可欠です。