多くの生活者が抱く最大の疑問が、カビの部分を取り除けば食べられるかという点です。結論から申し上げれば、どれほど広範囲に削り落としたとしても、そのパンを口にするのは極めて危険です。農林水産省や東京都福祉保健局などの衛生指導機関でも、「カビの生えた食品は一部を取り除いても内部まで菌糸が及んでいるため、全体を廃棄すること」と強く警告されています。
さらにネット上でまことしやかに囁かれているのが、「カビパン加熱死滅の真相」を巡る俗説です。「高温のオーブントースターでこんがり焼けば、熱消毒されて無害化される」という理論ですが、これには決定的な科学的誤謬が存在します。確かに、生きているカビの胞子や菌糸自体は、60℃〜80℃の加熱を数分間加えることで死滅します。しかし、真の脅威はカビ菌そのものではなく、カビが増殖する過程で生み出される二次代謝産物、すなわちマイコトキシン(カビ毒)なのです。
このマイコトキシンは極めて熱耐性が高く、一般的な調理温度である180℃〜220℃程度のトースター加熱ではほとんど分解されません。焦げ目がつくほどしっかりリベイクしたとしても、毒素はそのままパンの生地の中に残留し続けます。また、「カビが生えたパンをトースターで焼く危険性」はパン自体にとどまりません。加熱時の対流やファンの風圧によって、乾燥したカビの胞子がトースターの庫内全体へ飛散し、電熱線や壁面に付着。その後に焼く清潔なパンを二次汚染させる温床になり得ます。