事故当時、シリーズ第7作となる映画『ワイルド・スピード SKY MISSION(原題:Furious 7)』の撮影は佳境を迎えており、ポールの出演シーンの約半分が未撮影のまま残されていました。主演俳優であり兄弟同然の絆を結んでいたヴィン・ディーゼルをはじめとするキャスト・スタッフは深い絶望に打ちひしがれ、プロジェクトは一時無期限の撮影中断に追い込まれました。一時は企画そのものの打ち切りも議論されました。
しかし、製作陣とスタジオが下した決断は、「ポールが愛したブライアン・オコナーというキャラクターを映画の中で死なせるのではなく、名誉ある形で引退させ、ポールへの最高のトリビュートを完成させる」ことでした。この極めて困難な挑戦を救ったのが、ポールの実の弟たちであるコーディ・ウォーカー(Cody Walker)とカレブ・ウォーカー(Caleb Walker)の全面的な協力でした。
ふたりの弟が代役・スタンドインとして撮影に参加し、ポールの体格や所作を完璧に再現。ピーター・ジャクソン率いる世界屈指のVFXスタジオ「WETAデジタル」が、過去の未使用フッテージや兄弟の顔の3Dスキャンデータを融合させ、未撮影の約350カットに及ぶブライアンの表情を最先端のデジタル技術で創り上げました。
完成した映画のラストシーン、白いトヨタ・スープラに乗ったブライアンと、ダッジ・チャージャーに乗ったドミニクが並走し、やがて別々の道へと分かれていくシークエンスは、映画史に残る感動的な名場面となりました。バックに流れたウィズ・カリファとチャーリー・プースによる主題歌『See You Again』は世界的な特大ヒットを記録。
ヴィン・ディーゼルは公の場やSNSを通じて、幾度となく亡き親友への思いを語っています。映画のワールドプレミアで涙を堪えながら語った「俺には兄弟がいた。パブロ(ポールの愛称)だ。この映画は彼のために作った」という追悼コメントは、ファンの胸を深く打ちました。ヴィンは事故の翌々年に誕生した自身の三女に、ポールへの追悼を込めて「ポーリーン(Pauline)」と名付けており、ふたりの絆は映画の枠を遥かに越えた本物の家族そのものでした。