螺鈿の輝きを決定付ける要素は、使用される貝の選定にあります。中心となるのは夜光貝と白蝶貝、そしてアワビ貝(クロアワビ・マダカアワビ)です。
奄美・沖縄など亜熱帯の浅海に生息する大型巻き貝である夜光貝は、古来螺鈿の王様と称されてきました。炭酸カルシウムの結晶層が規則正しく並び、エメラルドグリーンからピンク、淡いパープルへと移ろう高貴な多重発色を誇ります。一方、真珠の母貝としても知られる白蝶貝は、南洋の海で育ち、銀白色の清廉な光沢とシルキーな滑らかさが特徴です。冷涼な海で育つアワビ貝は、青緑と深紅のコントラストが極めて激しく、野性味のある神秘性を放ちます。
これら天然の恵みを変幻自在の文様に仕立てる螺鈿細工の技法は、大きく2系統に分かれます。
- 厚貝(あつがい)技法:厚さ約0.5ミリから1.5ミリ程度に削った貝片を用います。木地や漆面を貝の形状通りに彫り込み、象嵌して平らに研ぎ出す手法です。重厚で立体的な存在感を生みますが、曲面には馴染みにくいため、平面の箱物などに多用されます。
- 薄貝(うすがい)技法:貝を限界まで研ぎ澄まし、厚さ0.05ミリから0.1ミリ前後の極薄フィルム状にして漆面に貼る手法です。木地のわずかなカーブにも密着し、裏面に金箔や顔料を塗って色合いを調整する「色伏せ(いろふせ)」と呼ばれる高度な演出も可能にします。
実際の螺鈿細工の作り方は、驚くほど過酷で緻密な工程の連続です。まず原貝の外側にある厚い石灰層をグラインダーや薬品で削り落とし、真珠層だけを取り出します。次に、煮沸して薄板状に剥離させ、砥石でミクロ単位の厚みに均一化します。その後、糸鋸や専用の針、彫刻刀を用いて文様を切り出し、漆を接着剤にして素地へ配置。全体を漆で塗り込めて完全に硬化させた後、木炭や砥石で丹念に表面を研ぎ出し、埋もれていた貝を漆の層から再び浮き上がらせます。最後に「摺り漆(すりうるし)」と鹿の角の粉末を用いた手磨きを何度も繰り返し、極上の艶を生み出すのです。