東京カテドラルの魅力は大聖堂の躯体だけにとどまりません。境内の北東側に足を運ぶと、豊かな樹木に抱かれるようにして現れるのが、歴史的な「ルルドの洞窟」です。
フランス南西部のピレネー山麓にあるルルドは、1858年に少女ベルナデッタの前に聖母マリアが現れ、湧き出る泉が数々の奇跡的治癒をもたらしたとされる世界的な巡礼地です。文京区関口の地にあるルルドの洞窟は、フランス人宣教師らの尽力により1911年(明治44年)に建造されました。本場フランスの洞窟の形状と寸法を精密に模して造られており、当時のフランス人神父がルルドから持ち帰った奇跡の泉の水が注がれたと伝えられています。
大聖堂の歴史そのものも、苦難と再生の連続でした。1899年(明治32年)に建てられた初代の聖堂は、美しい木造ゴシック様式で親しまれていましたが、1945年5月25日の東京大空襲によって灰燼に帰しました。戦後、再建に向けて立ち上がった際、多大な復興資金と精神的支援を寄せたのが、同じく第二次世界大戦で壊滅的な被害を受けたドイツのケルン大司教区でした。この国際的な連帯と友情を記念し、世界的コンペを経て丹下健三の設計が選ばれ、現在の聖マリア大聖堂が誕生したのです。
丹下健三自身にとっても、この大聖堂は生涯の代表作であり、深い愛着を寄せた場所でした。2005年3月に丹下が91歳で逝去した際、葬儀・告別式が執り行われた場所も、ほかならぬこの大聖堂でした。戦災からの復興、都市の再生、そして建築家の魂が眠るこの地は、東京という大都市における平和のモニュメントでもあります。