白菜の完璧な下処理が完了した後に待ち受けるのが、「火入れ」のプロセスです。日本全国で親しまれるすき焼きですが、文化圏によってその調理アプローチは大きく二分されます。関東風関西風すき焼きの違いを正しく把握し、それぞれの流儀に適合したすき焼き具材を入れる順番を遵守することが、白菜の美味しさを最大限に引き出す必須条件となります。
関東風は、あらかじめ醤油、みりん、酒、砂糖、出汁を絶妙な黄金比で合わせた割り下を鍋に張り、具材を「煮込む」スタイルです。関東風における理想的な手順は以下の通りです。
まず鍋に割り下を適量注ぎ、中火でひと煮立ちさせます。最初に投入すべきは、白菜の「芯(そぎ切り)」、長ネギ、焼き豆腐、しいたけなどの火が通りにくく、旨味を割り下に供給する具材です。白菜の芯が割り下を適度に吸い込み、半透明になり始めた絶妙なタイミングで牛肉を泳がせるように広げ、最後に白菜の「葉先」と春菊を投入します。葉先は余熱と割り下の蒸気で蒸らす程度で十分であり、わずか1分ほどで火を止めるか弱火に落とすのが、瑞々しい食感を残す鉄則です。
対照的に関西風は、牛脂を熱した鍋でまず上質な牛肉を焼き、砂糖と醤油を直接振りかけて肉の旨味を凝縮させた後、野菜から出る水分を利用して調味していく「焼き」の文化です。関西風において白菜の芯は、肉を焼いた後の香ばしい脂と砂糖・醤油のカラメル状の旨味を真っ先に受け止める主役となります。肉を少し端に寄せ、空いたスペースに白菜の芯を敷き詰めるように配置することで、肉の焦げ付きを防ぐ緩衝材(クッション)の役割も果たします。芯から滲み出た上質な水分が鍋肌の調味料を溶かし、濃厚なタレとなって全体に行き渡ったところで葉先を加え、手早く仕上げます。
なお、調理科学的な観点から見落としてはならないのが「しらたき(糸こんにゃく)と牛肉の配置」です。かつて「しらたきのカルシウムが肉を硬くする」と言われていましたが、一般財団法人日本こんにゃく協会の検証実験などにより、現在ではその影響は極めて軽微であることが判明しています。しかし、鍋内の熱伝導を均一に保ち、白菜に肉の灰汁(アク)を吸わせないためにも、肉、白菜の芯、しらたきは鍋の中で明確に陣地を分けて配置することが、美しく澄んだ味に仕上げる秘訣です。