信貴山朝護孫子寺の境内は山ひとつを丸ごと抱え込んでおり、見どころのスケール感は一般的な寺院の想像をはるかに超える。境内へ足を踏み入れると、まず度肝を抜かれるのが「大寅(世界一の福寅)」の堂々たる姿だ。
全長約6メートル、高さ約3.9メートルを誇るこの張り子の虎は、電動で首を悠然と振るギミックを備えており、訪れた参拝客の誰もが足を止めて記念撮影を行う名物となっている。その傍らには子虎や赤虎もたたずみ、家内安全や開運厄除けの象徴として参拝者を温かく見守っている。
そこから灯籠が両脇に延々と連なる参道を登っていくと、信貴山の中腹にせり出すように造営された懸造(かけづくり)の「本堂」が現れる。京都の清水寺を彷彿とさせる舞台からは、遥か奈良盆地や大和三山を一望する息を呑むような大パノラマが広がり、澄んだ山の風が参拝者の雑念を吹き飛ばす。
さらに歴史愛好家にとって見逃せないのが、霊宝館に寄託されている国宝「信貴山縁起絵巻」の存在だ。平安時代後期に描かれたこの絵巻は、鳥獣戯画や伴大納言絵詞と並び称される日本四大絵巻の最高傑作。信貴山中興の祖である命蓮(みょうれん)上人が、托鉢の鉢を神通力で飛ばして強欲な長者の米倉を山へと丸ごと運んでしまう「飛倉(とびくら)の巻」は特に有名だ。人物の躍動感あふれるコミカルな表情や流麗な筆致は、千年の時を超えて今なお見る者を圧倒する。(※霊宝館の公開時期は春・秋の特別開扉などに限られるため、訪問前のスケジュール確認が必要である)。
また、健脚の参拝者であれば、標高437メートルの信貴山頂に鎮座する「空鉢隆秀大名神(くうはつりゅうしゅうだいみょうじん)」への登拝をおすすめしたい。命蓮上人が祈祷によって竜王を勧請したと伝わるこの地は、地元では「空鉢さん」と呼ばれ親しまれており、「一頭地を抜く成果を収める」「水のように財を呼び込む」一願成就の白蛇信仰が今も熱心に続けられている。