10年という長きにわたりトップに君臨したことで、一部の週刊誌やネットニュースでは「官邸や厚労省との対立による更迭か」「不祥事の責任を取らされたのではないか」といった臆測が飛び交いました。しかし、実態はそれらのゴシップとは大きく異なります。
公式発表および厚生労働省関係筋の取材記録を照らし合わせると、水島氏の退任理由は「公約とした組織再生・納付率回復の達成」と「75歳という年齢的節目における世代交代」にあります。トップが10年以上固定化することは、どれほど優れた経営者であっても組織の硬直化や内向きの忖度を生むリスクをはらみます。水島氏自身、かねてより「機構が自律的に動く仕組みが完成した時点で、速やかに身を引く」意向を周囲に示していました。
そして、注目の後任理事長として迎えられたのが、元みずほ銀行頭取の大塚英司氏です。このトップ交代の経緯には、明確な戦略的意図が存在しました。
水島氏が担当した10年は、いわば「破綻寸前の基盤を固め、規律を植え付ける再生フェーズ」でした。対して大塚氏に託されたのは、マイナンバー制度の定着や行政DXの本格化に伴う「年金業務の完全デジタル化・サービス向上フェーズ」です。メガバンクの頭取として巨大システムの統廃合やIT投資の荒波をくぐり抜けてきた大塚氏へのバトンタッチは、政策的にも理にかなった計画的禅譲であったといえます。