「僕たちは幸せになるために生まれてきた」という言い回しは、特定の単一人物による発言だけにとどまらず、時代ごとに象徴的なメディアやカルチャーを通じて国民的フレーズとして定着してきました。ネット上で「誰の言葉なのか?」と元ネタを探す声が多い背景には、異なる複数の強力な発信源が存在することが挙げられます。
音楽シーンにおいて最も広く共有された記憶といえば、2002年にリリースされた浜崎あゆみの28thシングル『Voyage』です。TBS系ドラマ『マイリトルシェフ』の主題歌であり、短編映画『月に沈む』のテーマ曲にもなった同曲のサビでは、「僕達は幸せになるため 限られた時間を旅して」という切実なフレーズが歌い上げられました。当時、絶頂期の中で重圧と闘っていた彼女が紡いだ生々しい告白とも取れる歌詞は、ミレニアル世代を中心に「人生の儚さと幸福への希求」として深く刻まれています。
思想界に目を向けると、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が世界各国で語り続けてきた「The purpose of our lives is to be happy.(私たちの人生の目的は、幸せになることである)」という教えが世界的な底流にあります。さらに日本国内では、作家の辻仁成氏の著作や相田みつを氏の詩情、日本国憲法第13条が保障する「幸福追求に対する国民の権利」に至るまで、多様な文脈でこの理念が語り継がれてきました。
そして2010年代以降、この言葉に全く新しい哲学的・心理学的解釈を与えたのが、岸見一郎氏と古賀史健氏による世界的ベストセラー『嫌われる勇気』の続編『幸せになる勇気』です。同書ではアルフレッド・アドラーの思想をベースに、「人は今この瞬間から幸せになれる」と説きながらも、なぜ多くの人が幸せになることを恐れ、自ら不幸を選択してしまうのかという人間の深層心理を暴き出しました。