日本におけるこの楽曲の受容史において、メディアの影響力は計り知れません。1990年代から2000年代以降、キリンビールやダイハツ、コスモ石油などのテレビCMに幾度となく起用され、クイーン屈指の名曲CMソングとしてのパブリックイメージが完全に定着しました。商品が持つ爽快感やスピード感を表現するツールとして、これ以上ない説得力を持っていたからです。
決定打となったのは、世界興行収入1000億円超を記録した2018年公開の映画『ボヘミアン・ラプソディ』の挿入歌(エンドロール曲)としての役割でした。作中でエイズ発症宣告を受けながらも「ライヴ・エイド」で魂の歌唱を披露したフレディの歩みの後に、実際のフレディの映像とともに流れるこの曲は、単なるエンドクレジットを超えて「生き急ぎ、燃え尽きた天才のカーテンコール」として観客の涙腺を崩壊させました。
カラオケ文化が根付く日本において、Don't Stop Me Nowをカタカナ表記で検索し、自ら歌いこなそうとするユーザーが急増したのもこの時期です。「トゥナイッ・アム・ゴナ・ハヴァ・グッ・タイッ」「アム・ア・シューティンスター・リーピン・スルー・ザ・スカイ」といった流れるような音の連結(リエゾン)は、歌唱難易度が高いにもかかわらず、宴席やドライブを最高潮に盛り上げる鉄板曲として親しまれています。
ネット上のコミュニティ(SNSや大手掲示板)におけるDon't Stop Me Nowのネットの反応を検証すると、二重のレイヤーが存在することが分かります。「朝の通勤時に聴くとアドレナリンが出る」「筋トレの最高のお供」という純粋な活力源としての感想が8割を占める一方、熱心なロックファン層からは「歌詞の意味を知ってから聴くと、フレディの孤独と必死の空元気が痛々しくて泣けてくる」といった、光と影のコントラストを噛みしめる声が根強く書き込まれています。