2023年12月12日、所属事務所である吉本興業の公式発表によって激震が走った和牛の解散劇。その発表文の中で川西賢志郎は、数年前から水田信二の遅刻が続いたことで「相方への信頼感が揺らぎ始めた」と率直に吐露しました。漫才の出番直前に相方が現れないという極限の緊張状態が繰り返されたことは、舞台にすべてを懸けていた川西の精神を決定的に摩耗させました。
しかし、本質的な和牛の解散理由は単一の生活態度問題にとどまりません。現場関係者への取材や当時の発言記録を丹念に紐解くと、浮き彫りになるのは「漫才という至高の芸に対する美学の不一致」です。川西は365日舞台に立ち続け、一語一句の間やトーンをミリ単位で研ぎ澄ます「純粋な劇場漫才師」であることを何よりも望んでいました。一方の水田は、卓越した料理の腕前やキャラクター性を活かし、テレビバラエティやマルチなメディア展開へ活動領域を広げる野心を抱いていました。
水田信二と川西賢志郎の不仲説がネット上で過熱した背景には、ラジオ番組『和牛のモーモーラジオ』等で見せていた議論の激しさや、舞台裏での張り詰めた空気感の目撃談がありました。しかし、それは憎しみによる衝突というよりも、プロフェッショナルとしての妥協を許さないがゆえの「表現の摩擦」でした。川西にとって、相方へのリスペクトを完全に失う前に「和牛の漫才」を美しい記憶のまま封印することこそが、相方と作品に対する最後の誠意だったと言えます。