『千と千尋の神隠し』で千尋が湯婆婆の私室に足を踏み入れた際、観客が目を見張るのは、山のようなクッションの中に埋もれた坊の圧倒的な巨大さです。10歳の少女である千尋と比べても数倍の質量を持ち、力任せに腕を掴んで千尋を拘束しようとする姿は異様さを漂わせています。
作中における坊の年齢設定について公式の明確な数値指定はありませんが、オムツを締め、赤い前掛けを着け、言葉もおぼつかないハイハイの段階であることから、発達段階としては1〜2歳の乳幼児を模しています。それにもかかわらず、なぜ成人の何倍もの体躯として描かれたのでしょうか。
宮崎駿監督は当時のインタビューや絵コンテ解説において、坊の造形について「外の世界から隔離され、過保護に育てられた結果、精神的・肉体的にいびつに肥大化してしまった子供」の暗喩であると示唆しています。湯婆婆は「お外は病気になる悪い菌ばかり」と言い聞かせ、豪華絢爛なクッションや大量のオモチャで満たされた部屋に坊を閉じ込めていました。この外界を遮断した「温室育ちの密室」こそが、赤ん坊の姿のまま際限なく膨張した巨体の正体です。