9年間の義務年限と聞いて、「最初の2年は初期研修だから、実質へき地に行くのは数年程度だろう」と安易に構えていると、現場に配属された初日から強烈なカルチャーショックを受けることになります。公式資料や卒後進路規定によると、卒業後の9年間は一般的に次のようなプロセスを辿ります。
まず卒後の初期臨床研修(2年間)は、原則として出身都道府県の本庁が指定する中核的な県立病院や大学病院で行われます。高度医療や救急救命を叩き込まれるこの時期は、一般的な臨床研修医と環境面での大きな乖離はありません。問題はその後に待ち受ける義務診療期間(7年間)です。
3年目以降、医師は各都道府県の地域医療計画に基づき、山間部の無医村診療所、日本海や太平洋に浮かぶ離島の診療所、あるいは人口数千人規模の町立病院へ派遣されます。自著や手記で当時の過酷さを告白したある卒業生医師は、「夜間に激しい胸痛を訴える高齢者が飛び込んできた際、応援の専門医もおらず、CTや高度な血液検査機器もない現場で、自分の聴診器と心電図だけを頼りにドクターヘリの要請判断を下さなければならなかった。あのプレッシャーと孤独感は今も忘れられない」と述懐しています。
もちろん、へき地勤務の期間は自治体によって差があり、一般的には通算で4〜5年程度を過疎地やへき地診療所で過ごし、残りの期間を地域の中核公立病院で勤務するケースが主流です。しかし、医療リソースが枯渇した環境で全人的なプライマリ・ケアを担う重責は並大抵ではなく、20代後半から30代前半という医師としての基礎形成期において、都会の先端医療から物理的に切り離される覚悟が求められます。