世界で最も有名なホラーアイコンの誕生は、綿密なキャラクターデザインによるものではなく、撮影現場の偶然と効率化の産物でした。映画製作陣の回想録や当時のインタビューによると、ホッケーマスクが採用された背景には、過酷な特殊メイクの負担を軽減するという切実な現場の事情が存在していました。
当時、ジェイソンを演じた俳優リチャード・ブルッカーの顔面には、連日何時間もかけて大掛かりな異形メイクが施されていました。さらに『PART3』は当時最先端だった3D立体映画として撮影されていたため、照明の調整やカメラアングルのテストに膨大な時間を要していました。そのたびに特殊メイクを直す労力に限界を感じていたスタッフの前に、偶然の解決策が現れます。
特殊効果スーパーバイザーを務めていたマーティン・サドフは、大のナショナルホッケーリーグ(NHL)ファンでした。彼が私物のギアバッグに忍ばせていたのが、プロチーム「デトロイト・レッドウィングス」のゴールキーパー用ホッケーマスク(当時市販されていたFibrosport社製モデル)だったのです。サドフが照明チェックの代用としてこのマスクをブルッカーの顔に被せたところ、その場にいたスティーブ・マイナー監督が異様な威圧感に目を奪われ、「これこそがジェイソンにふさわしい」と即座に本編への採用を決定しました。
映画用プロップとして仕上げるにあたり、マスクにはいくつかの修正が施されました。鼻や口周りの通気穴の形状を調整し、さらに映画用のアクセントとして額と両頬に赤い三角形のシェブロンマークがペイントされました。この赤いマーキングは、元ネタとなったレッドウィングスのチームカラーと意匠に由来しており、無機質な白い仮面に血のイメージを想起させる決定的な視覚効果を与えることになりました。