休館期間中、SNSや掲示板でまことしやかに囁かれたのが「江戸東京博物館が解体されるらしい」「老朽化で取り壊し決定か」という言説でした。結論から述べれば、江戸東京博物館の解体の噂と真相を照合した結果、解体の計画は過去にも現在にも一切存在しません。根も葉もない完全な誤情報です。
では、なぜこれほど強烈な噂が一人歩きしてしまったのでしょうか。背景には、この建造物が持つ唯一無二の建築的意匠と、社会情勢の暗合がありました。同館を手掛けたのは、日本建築界の巨匠であり「メタボリズム(新陳代謝)」運動の旗手として知られる菊竹清訓建築です。4本の巨大な脚で巨大な展示空間を地上数十メートルに持ち上げる高床式倉庫の構造は、圧倒的な存在感を放つ一方で、外周をすべて足場で覆われた際に「まるで巨大建築の解体現場」のように見えてしまったという視覚的要因が挙げられます。
さらに同時期、同じ菊竹清訓の代表作であった銀座の「中銀カプセルタワービル」が惜しまれつつ解体されたことや、昭和・平成初期の名建築が維持費高騰により次々と姿を消していくニュースが連日報じられていました。これにより、「あの維持が大変そうな江戸博も、ついに取り壊されるのではないか」という市民の不安と憶測がネット上で増幅され、既成事実のように拡散してしまったのが真相です。
メタボリズムとは、生物のように部分を更新しながら永続的に生き続ける建築思想を指します。今回の改修工事は、建築を壊すためではなく、菊竹建築の思想通りに設備という内臓を新陳代謝させ、今後50年、100年と遺産を継承するための延命プロジェクトに他なりません。