「世界で最も安全に出産できる国」と称される日本で、なぜ低出生体重児の比率が高止まりしているのでしょうか。1980年代初頭には約5.1%だった割合が、1990年代から2000年代にかけて急上昇し、近年も約9.4%前後で推移しています。取材班の調査によって、この逆説的な現象には単一の要因ではなく、3つの構造的要因が重層的に関係していることが浮き彫りになりました。
1つ目の要因は、「20代〜30代女性のやせ傾向」と長年続いてきた過度な妊娠時体重制限の負の遺産です。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、20代女性の約5人に1人がBMI18.5未満の「やせ」に該当します。かつて産科現場では妊娠高血圧症候群などを防ぐ目的で、体重増加を7〜8kg程度に抑える厳しい指導が主流でした。しかしこれが胎児の発育不全を招いたとの反省から、日本産科婦人科学会は指針を改定し、適正な体重増加(普通体型で10〜13kg、やせ型で12〜15kg)を推奨する舵を切りました。それでも、ネット空間に残る「太りすぎると難産になる」「早く体型を戻したい」という美意識の刷り込みは根深く残っています。
2つ目は、「晩婚化・晩産化」に伴うハイリスク妊娠の増加と生殖補助医療(ART)の普及です。女性の初産平均年齢が30歳を超え、35歳以上の高齢出産が増加したことで、妊娠高血圧症候群や前置胎盤などの母体合併症が起きやすくなりました。母児の安全を最優先するため、満期(37週)を待たずに帝王切開で早期娩出を選択するケースが増えています。また、不妊治療の進歩に伴い多胎妊娠の頻度が高まった歴史も影響を与えています。
3つ目は、皮肉にも「世界最高水準を誇る日本の新生児医療技術の進歩」そのものです。かつてであれば救命が困難であった在胎週数22〜23週、体重数百グラムの超低出生体重児が、高い確率で生命を繋げるようになりました。かつてなら死産や流産に分類されていた命が救命されるようになった結果として、統計上の出生数にカウントされる割合が増加したという側面があります。