杉下右京の代名詞ともいえる「高いところから注ぐ」紅茶の淹れ方ですが、当初の台本には具体的な注ぎ方の指定はありませんでした。脚本に書かれていたのは単に「右京、紅茶を淹れる」という簡潔なト書きのみでした。
当時の特番インタビューや関係者の証言によると、この印象的なスタイルは主演の水谷豊氏が現場で考案した完全なアドリブでした。特命係という窓際部署で、明晰な頭脳を持て余しながらも決して品格を失わない右京のキャラクターをどう視覚的に印象付けるか。水谷氏が試行錯誤を重ねる中で「紅茶を普通に注ぐだけでは面白くない。少し気取った、右京らしい変わった所作にしよう」と閃いたのが始まりでした。
当初は数センチ程度ポットを浮かせる程度でしたが、シリーズを重ねるごとに右京の感情の高ぶりや演出意図に合わせてその位置は高くなっていきました。現在ではポットを顔の高さやそれ以上にまで引き上げ、一滴もこぼさずにカップを満たす卓越した職人技のようなパフォーマンスへと昇華されています。