ぬめりを完璧に取り除き、下ごしらえを整えたらいよいよ茹での工程です。ここで最も重要なパラメータが「湯量」「タコ茹で時間と塩分濃度」、そして「鍋への投入方法」です。
まず湯量ですが、タコを入れた瞬間に湯の温度が急低下するのを防ぐため、できる限り大きな鍋にたっぷりの湯(最低でもタコの重量の4〜5倍)を沸かします。湯に対する塩分濃度は海水に近い2.0〜2.5%に設定するのが鉄則です。塩分が薄すぎるとタコの浸透圧で旨味成分が湯の中に逃げ出してしまい、濃すぎると身が塩辛くなって料理の応用が利かなくなります。
茹で方の手順には、プロならではの美しい見栄えを作る儀式があります:
- 沸騰した湯(番茶を煮出した状態)を弱火〜中火にし、ボコボコとした大きな沸騰を鎮めます。
- タコの頭を持ち、足の先端だけを熱湯に「チョンチョン」と3〜4回浸けては引き上げます。すると、先端がクルクルと内側に美しく巻き上がります。
- 足全体を徐々に沈めていき、最後に頭まで完全に湯の中へ滑り込ませます。
茹で時間の基準は、重量1kg前後の真タコであれば「足の太い部分で2分30秒〜3分程度」、頭部を含めても全体で4分以内がひとつの目安です。竹串を足の最も太い根元に刺した際、中心部にわずかに「生」の弾力が残る程度のミディアムレア状態で引き上げるのが、プロの技法です。余熱によって中心部までじんわりと熱が通るため、鍋の中で完全に火を通し切ってしまうと確実に硬化します。
生タコ刺身用下ごしらえとして楽しむ場合は、茹でるのではなく、足の皮を削ぎ落として吸盤と芯の筋肉を分ける手法や、沸騰した湯に吸盤側からわずか10〜15秒ほどサッとくぐらせて氷水に取る「湯引き(霜降り)」が最適です。表面のぬめり成分が完全に凝固して洗い流され、外側は心地よい歯ごたえ、中心は生特有のねっとりとした甘みという、鮮烈なコントラストを堪能できます。